“もったいない”を価値へ

株式会社クラダシ 代表取締役社長

関藤竜也さん

2021.1.29

SDGsの達成目標でもある「2030年までにフードロス半減」を目指す、日本初・最大級の社会貢献型ショッピングサイト「KURADASHI(クラダシ)」。フードロス削減に賛同したメーカーから協賛価格で提供を受けた商品を、最大97%OFFで販売。そして、売上の一部を社会貢献活動団体へと寄付しています。今回はその斬新なサービスを立ち上げ、第3回「日本サービス大賞」農林水産大臣賞などを受賞し注目を集める株式会社クラダシの関藤さんにお話しを伺いました。

  • 株式会社クラダシ 代表取締役社長

    関藤竜也さん

    1971年大阪生まれ。1995年総合商社入社。2002年より経営コンサルタント会社にて取締役副社長を経て、2014年フードロス問題を解決するために起業。2015年社会貢献型ショッピングサイト 「KURADASHI」のサービスを開始。

大量廃棄を目の当たりにして

img-vw

クラダシを設立したきっかけを教えてください。

きっかけは、学生時代に経験した阪神淡路大震災と、社会人になってから中国で大量生産大量廃棄の現状を目の当たりにしたことです。
1995年1月17日の阪神淡路大震災、当時私は商社から内定をもらっていた大学4年生でした。震度6強の大地震にタンスが倒れ、いろんなものが割れてガラスだらけ、水も出ないという状況でした。数時間後、阪神高速道路が倒れたというニュースを観た私は「これは大変だ。自分よりもっと大変な人がいるはずだ。」と思い、自然と身体が動き出し、家にあった救援物資をバックパックに詰め込み、両親に見送られて震源地に向かい走り出しました。
一日救援活動をして感じたことは、1人でできることの限界、毎日救助に行けない無力感でした。その後も余震が続く中、漠然とですが〝人のためになるプラットフォームや仕組みを作りたい〟と思い、社会人になりました。

img-vw

その後、中国で大量廃棄の現場を目の当たりにされたんですよね。

社会人になって商社に勤め、いくつかの部門を経験しました。1998年に行ったのですが、そこで見たものは、規格外のものが大量に廃棄される光景でした。例えば、コンビニのレジの前に売られているようなチキン。これらは、同じようなグラム数で同じような形になっています。作るものの精度も廃棄基準の精度も高い日本の仕様書では、60gの場合、±12gでそれ以上は廃棄。たとえ40g、80gであっても、もちろん食べられるのですが、全て廃棄。そのような光景をたくさん見ました。

img-vw

「これは特に衝撃を受けた!」という現場はありますか?

最もリアルに感じたのは海洋資源の現場でした。子持ちししゃもを仕入れたはずが、コンテナに入っていたのは卵のないオスでした。当然食べられるけれど、それを保管する保管料がなく、コンテナ単位の保冷倉庫も見つかりませんでした。結局、行き場を失って全て廃棄になりました。
〝大量に捕獲して大量に廃棄したら生態系は崩れる〟このままではいずれ大きな社会問題になると思い、見えてきたものが今で言う“フードロス”問題でした。

img-vw

そもそもなぜ食品はそんなに廃棄されてしまうのでしょうか…。

食品は絶対的安全性が求められることや賞味期限があること、そして安価であることが大量廃棄の背景にあります。みなさんも、1万円のものに対して500円の宅配料であれば宅配を頼むけれど、100円のものを500円の宅配料では頼もうと思わないですよね。それと同じように、食品業界では安い食品に対して費用をかけて配送・保管していくことは難しいと考えられています。そういった食品ならではの難しさが積み重なり、フードロスに繋がっていると思います。フードロスは、いずれもっと大きな社会問題になり、生態系を含め、命のありがたみが分からなくなってしまうのではないかと危惧しています。
私は、食品は流通させることが一番難しいものだと考え、そこにチャレンジする意義を感じました。流通が難しい食品を手がけることができると、他の商品も流通させることができると考えたんです。

クラダシで社会課題に取り組む

img-vw

クラダシではどんな取り組みをされているのでしょうか。

クラダシでは、賞味期限内にもかかわらず廃棄する予定だったものを買い取り、それをお得に消費者にお届けするという仕組みでショッピングサイトを運営しています。メーカーさんから協賛価格で商品を提供していただき、それを最大97%オフで消費者の皆様にお届けします。そしてその購入していただいた額の3~5%を社会貢献団体に寄付しています。一説には廃棄食糧の1/4を有効活用できれば、世界の飢餓人口8億人を十分養うことができると言われています。フードロスを削減することにも貢献しつつ、社会貢献団体にも寄付を行ない、様々な人の力になれたらと思っています。

img-vw

どのような理由で出品されるのか気になります。

賞味期限が理由で廃棄予定だったものを出品されるメーカーさんが多いです。食品業界には製造日から賞味期限までの期間を3等分して納品・販売期限を設ける「3分の1ルール」というものがあり、製造日から賞味期限までの3分の1の時点までしか販売することができません。その結果、賞味期限までまだ時間があるにも関わらず、廃棄しているのが日本の現状です。また、日本は規格が大変厳しく、少しのパッケージの汚れやキズなどだけの理由で販売できないものも多くあります。ほんの少し規格からずれてしまったものや、目立たないキズもの出品するメーカーさんも多いです。

img-vw

ショッピングサイトの他にも、「クラダシチャレンジ」という取り組みをされていますね。

はい。クラダシチャレンジは、人手不足に悩む地方農家へ学生を派遣する“社会貢献型インターンシップ”です。都心では体験できないような経験を求める学生がインターンとして、地域の課題を解決する機会を提供しています。
学生の交通費や宿泊費などを地域経済の活性化と社会発展に寄与するために設立した「クラダシ基金」で賄い、人手に困っている地方農家に行ってもらいます。学生が未収穫となっていた一次産品を収穫し、食品ロスの削減を目指します。収穫したものはクラダシで買い取って販売し、地方農家を支えます。さらに、売上の一部は 「クラダシ 基金」に還元され、次世代の学生たちに託されていきます。クラダシチャレンジによって学生と地方農家をつなぐエコシステムを実現し、未収穫産品の削減と地域社会の新たな発展を図っています。

img-vw

大学生が「クラダシチャレンジ」の活動に参加するとどんな体験ができますか?

クラダシチャレンジでは、収穫作業をするだけでなく、地域に滞在し、地域の方々や子どもたちと交流し、地域の課題を実感するとともにどうすれば解決できるのか、考える体験ができます。実際に参加した学生からは「実際に地域に行って現場を覗いてみると、普段考えもしないような課題がたくさんあった」、「地域課題と、村民の方の思いを知ることができた」などの声をもらいます。

img-vw

クラダシチャレンジを通して大学生に伝えたいことを教えてください!

これから社会に出ていく若い世代に、一次産品の収穫体験や現状を知ってもらうことで、生産から流通までの流れを知ってもらいたいなと思っています。このようなことを知ってから社会に出ていくと、どんな仕事に就いても、視野が広がり、社会の全体像が見えてくるので面白いと思うのです。若い世代にとってクラダシチャレンジがそのような収穫を得られる場になってほしいと思います。
情報システムは発達していますが、クラダシチャレンジで一歩踏み出す勇気を持つことを学んでもらい、失ってはいけない感性、温かい心を持った人が多くなったらいいなと思います。

クラダシとSDGs

img-vw

クラダシはSDGs達成に向けてどのように貢献しているのでしょうか?

日本は、食料自給率が38%※ と低く、それ以外を海外からの輸入に頼っています。それら輸入するための飛行機や船舶にエネルギーを使い、食品廃棄で再びエネルギーを使っている現状にあります。
クラダシは、廃棄されてしまいそうな商品に新しい価値を加え、今まで廃棄するしかなかった生産者側、クラダシを通じて安く商品を購入できる消費者側、両者がフードロスという社会課題に貢献することができると思います。フードロスを削減することで、焼却する際のCO2の発生を抑制することにもなりますよね。
また、クラダシチャレンジを通して生産者の高齢化による未収穫ロスを若者の力で減らしていく、食料自給率を上げるための貢献をしています。

※農林水産省「令和元年度食料自給率・食料自給力指標」より

img-vw

様々な企業がクラダシに出品することで、企業のSDGs貢献にも繋がりますね。

SDGsの観点から、メーカーさんはクラダシに出品することでフードロスに貢献することができます。一次流通で余ったものが、ディスカウントルートとして 安く売られるとブランド価値が下がったり、イメージ悪くなったりしてしまうので致し方なく廃棄している現状があります。クラダシとの取引自体が企業さんのコーポレートバリュー向上にもつながると思っています。ユーザーさんも、お財布にエコなお買い物ができることに加え、 商品を購入することが人のため社会全体のためになる。企業さんとユーザーさん、社会全体にメリットがあるwin-win-winな状態をクラダシは仕組み化しています。

ソーシャルエンジンとして社会の負を解決したい

img-vw

クラダシは企業と消費者の橋渡しをする重要な役割だと思いますが、人々にとってどんな存在でありたいですか?

一人ひとりの心の中のソーシャルエンジンを動かすような存在でありたいと思っています。フードロス削減というのは社会の大きな課題ですが、それとは別に、個人の心の奥には何かいいことをしたい、という気持ちがあると思うのです。クラダシを利用してもらうことやクラダシチャレンジに参加していただくことで、「ソーシャルグッドなことをしよう」という気持ちのエンジンを動かすお手伝いができたらいいなと思っています。

img-vw

今後の課題や目標を教えてください。

2030年までにフードロスを半減させることです。
また、そのほかの社会の課題を解決する企業、ソーシャルグッドカンパニーであり続けたいと考えています。その一つとして、クラダシチャレンジを拡大し普及させることが目標です。大学生が日本地図見ながら「次はどこのクラチャレに行こうか?」と日本全国のクラダシチャレンジに気軽に申し込めたり、定年後や子育て後のシニア世代の活躍の場や企業の研修の場としても利用してもらえるようなものにしていきたいと思っています。

関藤さんのおしゃれなエコライフ

img-vw

関藤さんにとってオシャレなエコライフとは?

「もったいないを価値へ」

クラダシでは、捨てられてしまうものに“もったいない”という新しい価値をつけて、再流通させています。出品側としてもSDGsに取り組めるという参加価値がありますし、ユーザーさん側も「世の中のために良いことしている!」ということ自体を感じながらお得にお買い物ができます。私はこれを、“もったいないの価値化”をしていると思っています。
私は、「自分のためのお買い物が、結果的に人のためにもなるってちょっと素敵じゃない?」という考えがサステナブルに繋がっていると思っています。お得なお買い物でフードロスを削減すると、廃棄物を焼却する時のCO2の発生抑制にもなります。何よりお財布にもエコだから「これいいよね」と友達に広めたくなる。その輪が広がれば広がるほど、日本のフードロスが減っていくと思っています。

Editor's note
ー取材後記ー

  • 島田真帆

    「本来であれば廃棄されてしまうはずの商品に新しい価値をつけて、生産者・消費者・社会全体にメリットのある仕組みをつくっているクラダシさんの取り組みは、良いことしかない素晴らしいものだと思いました。特に私たち消費者にとっては、お得にお買い物ができる上に社会貢献にも繋がるため魅力しか感じられません。クラダシさんの取り組みにより多くの人が共感し、フードロス削減の輪が広がると良いなと思いました。
    また、関藤社長が私たち若者世代に向けて伝えたいことで「一歩踏み出す勇気。」という言葉が心に残っています。今後もこの言葉を心に留めて行動していきます。」

  • 土屋奈々

    「世界的なフードロス問題について、私たちが見ているのはごく一部だと気づかされ一層危機感を持ちました。関藤さんをはじめクラダシの社員の皆さんの熱い思いがダイレクトに伝わってきて私も身が引きしまりました。そして、クラダシのことをもっと若い世代に知ってもらいたいし、自分も積極的に紹介し、また私自身もたくさん利用させていただきたいと思いました。」

関連リンク