「日本一楽しいゴミ拾い」で海を豊かに

NPO法人 海さくら 理事長

古澤純一郎さん

2020.4.30

「目指せ!日本一楽しいゴミ拾い」をスローガンに掲げ、神奈川県藤沢市 江の島を中心にユニークなゴミ拾いイベントを仕掛けるNPO法人海さくら。ゴミ拾いに「楽しさ」が必要な理由とは?理事長の古澤純一郎さんにインタビューしました。

  • NPO法人 海さくら 理事長

    古澤純一郎さん

    1975年10月6日生まれ。船具屋の長男として生まれ、慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、大手デパートに入社し3年間勤務した後、広告代理店にて5年間マーケティング営業の業務に従事。現在、古沢工業株式会社代表取締役を務める傍ら、NPO法人海さくらの発起人として理事長を務める。

江の島に「タツノオトシゴ」を戻すために

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古澤さんがゴミ拾いの活動を始めたきっかけを教えてください!

私は創業明治40年の船具屋の息子として生まれ、幼い頃から海で遊んできました。大学卒業後は大手企業に勤めていましたが、仕事以外で自分が熱くなれるものを探していました。そんな中、幼い頃から慣れ親しんだ江の島の海が年々汚くなっていることを感じていて、休日に一人でゴミ拾いを始めました。

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NPO法人として活動を始めたのはなぜですか?

「一人でできることには限界がある」と思ったからです。大手企業を退社後も、家業の古沢工業株式会社の仕事をしながら休日にゴミ拾いをしていました。しかし、私一人でどんなにビーチをキレイにしても、翌日にはまた大量のごみがある。そんな状況を目の当たりにし、一人ではなく団体として本格的に取り組むことで、みんなの力で継続的に海をキレイにすることができると思いました。そして長女が生まれた2005年に、子供たちにもキレイな海を遺したいという思いが湧いてきて、大好きな江の島の海を「かつて生息していたタツノオトシゴが戻ってくるくらいキレイな海にする」という目標を掲げて「海さくら」を立ち上げました。

「目指せ!日本一楽しいゴミ拾い!」

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海さくらで行っている活動を教えてください。

ベースは毎月行っているゴミ拾い活動です。ゴミ拾いと言っても、海さくらでは「楽しくマイペースに」参加できるようにしています。初めてでも楽しく参加していただけるよう、分かりやすい案内やトング等の貸し出しを行っていることはもちろん、重ねるとアートになるオリジナルゴミ袋を使用したり、「面白いゴミ拾った選手権」を行ったり、ゴミ拾い参加者のファッションを紹介したりと、季節ごとに楽しんでいただける工夫を盛り込んでいます。

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他にも様々なイベントや取り組みを行っていますよね。

はい。現役力士とゴミ拾いをし、キレイになったビーチで相撲を取る「どすこいビーチクリーン」や、サッカーやバスケットボールのプロチームとファンが一緒に試合会場周辺のゴミ拾いを行う「LEADS TO THE OCEAN~海につづくプロジェクト~」など、直接ゴミ拾いに興味がなかった人にでも楽しんで参加してもらえるイベントを行っています。

また、子どもの「海離れ」に対して、子どもたちに海で遊ぶ楽しさを感じてもらい親子に海の環境について知ってもらうために、海を見ながら遊べる船の遊び場「ちびっこBEACH SAVER パーク」を造っています。子どもたちに海を楽しんでもらうことは、海の環境をよくしていくための次世代に向けた取り組みとなっています。

海を大切にする人を増やす

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海ゴミが環境に与える影響について教えてください。

海ゴミは生態系に影響を及ぼします。街で出たゴミは川を伝って海に流れ出ます。そのゴミを魚や貝、海鳥などの多くの海の生き物が食べてしまい、死んでしまうことがあります。神奈川の海でも最近、海ゴミを大量に食べたクジラが死んだ状態で海岸に流れ着いたことがありました。海ゴミは海で暮らす生き物の命に危機をもたらし、さらにその海の生き物を獲って食べる生き物にも影響を及ぼします。私たちも日常で魚を食べていますが、海ゴミが増加して海が汚染されることによって魚が減少し漁業不振となり、食べられなくなるかもしれません。海ゴミは海の生き物、さらにはそれを食べる陸の生き物、地球全体の生態系に影響を及ぼす可能性があるのです。

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海さくらの活動は、SDGs・海の豊かさが守られることにどのように貢献していますか?

15年間この活動を広げてきましたが、まだまだ「海ゴミが減った」という実感がない、というのが現状です。「エコ」という言葉が浸透してきたのにも関わらず、ゴミ拾いでの海ゴミの回収量は減っていません。
しかし、たった一人で始めたゴミ拾いの活動は、多い月で約400人の方が参加してくれるようになりました。海の近くに住む人だけでなく街に住む人も、一人ひとりが海の環境について知り、海ゴミを減らそうという意識を持つことが、海の環境を守ることに繋がります。海さくらは「日本一楽しいゴミ拾い」を目指し、海を楽しみ、海を大切にする人を増やすことで、海の環境保全に取り組んでいきたいと思います。

楽しむことで、海を知ってほしい

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「楽しさ」と「ゴミ拾い」は遠いもののように思えますが、なぜ「楽しさ」にこだわっているのでしょうか?

皆さんが、環境に興味を持っていないとして、私から「ゴミ拾いしようぜ」と誘われたとしても、行こうと思わないですよね?行く気にならないどころか、環境問題に興味がないと、ゴミ拾いを偽善者からの押しつけがましいものに感じてしまうと思います。私だって、何か一つでもきっかけが欠けていたら、海の現状を知ることもなかったし、ゴミ拾いを始めていなかったと思います。
しかし海ゴミは、海の環境に興味を持ちにくい、都会の街から多くやってくるんです。場所によって海ごみの原因は違いますが、神奈川の海は川・街から約7割のゴミが海にきていると言われています。私の体感では、9割が街や川からゴミが来ているように感じます。

環境に興味のない街の人へゴミを減らすことの大切さを伝えなくてはならない。
だからこそ海さくらでは、海で「楽しい」ことをして、環境に興味のない人に一回でも海に来てもらい、そこで一緒にゴミ拾いをすることで海の現状を見てもらいたいと思い活動しています。海を楽しむと同時に、海の現状を知ることで、感性が変わると思うんです。
だからこそ、とにかく海に来てもらい、海の現状を知ってもらうために、「楽しい」ことを日々考えています。

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どんな人に活動に参加してほしいと思いますか?

若い方から年配の方まで幅広く『海さくら』の活動に参加していただいていますが、高校生から大学生の割合は比較的少ないですね。最近は街で遊べる施設も充実していて、若い人が海で遊ぶ機会が少なくなっています。なかなか海の現状を知る機会がなく、ゴミ拾いをしようとも思わないかもしれません。そういった方々にも海さくらのイベントや取り組みをきっかけに、海に来て楽しんでもらいたいと思います。

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SDGsや海の豊かさについて、みんなが自分ごととして捉えるために必要なことは何でしょうか?

SDGsに取り組む企業は増えてきていると思いますが、生活者一人ひとりが理解して行動するところまではいっていないように感じています。海ゴミは生活者が出しているので、私たちは「SDGs」という言葉をわかりやすく通訳をしなくてはならないと感じています。
単に「地球のために、ゴミのポイ捨てをやめよう、ペットボトルをやめよう、レジ袋を廃止しよう」ということを広めるのではなくて、なぜそれが環境に関わるのか?考えて、一人ひとりが考えて判断して行動できる世の中になるように発信していくべきだと思っています。しかしながら、一人で学んで活動するのはとても難しくなかなか続きません。「Cheer!SDGs」のように若い人達が集まって、みんなで一緒に考えてほしいと思います。海さくらと若い人たちでも一緒に楽しく考えて、一緒に行動していきたいですね!

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今後、『海さくら』ではどんな活動を展開していきますか?

海さくらでは、「ゴミ拾い」と「海の環境を整える」という2つの車輪を動かし、相乗効果で海をキレイにしていくことを目指しています。
まずは楽しい要素を取り入れた毎月のゴミ拾いを企画しています。
そして海の環境を整える活動として、海の中に森を創ろうとしています。「ブルーカーボン」といって、海の森(海藻など海に生息する植物)も陸の森と同じように二酸化炭素を吸ってくれるんです。また海藻は海の生き物の食べ物にもなり、住処にもなっています。海の森がなくなると、それを食べる生物もいなくなってしまい、生物生態系に悪循環がもたらされてしまいます。タツノオトシゴを江の島の海に戻すためには、海底に森を作ることが必要です。海さくらでは「海創造プロジェクト」として江の島住民の皆さん、漁師の皆さんにご協力いただきながら、江の島の海にアマモの植え付けを行っています。しかし、海藻を海に定着させるのはとても難しいんです。この活動にも増々力を入れ、2つの車輪をしっかり回していきたいと思っています。
ごみ拾いや海の森以外にも、様々な楽しい活動を通して江の島の海をきれいにするための活動を行っていく予定です。

古澤さんの「おしゃれなエコライフ」

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日本の海の特徴、豊かさ、恩恵はどんなところにあると思いますか?

いろいろな海を感じられるところだと思います。日本は東西南北が海に囲まれていて、複数の海流が入り込み、四季もあり温度も様々です。いろいろな魚が食べられて、場所によって全く違う景色を楽しめるのは、日本の海ならではの恩恵だと思います。

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古澤さんにとって「おしゃれなエコライフ」とは?

「海で爆笑すること!!」

海で爆笑して、お酒を飲んで…仲間がいて、子供達が安心安全に楽しめることが、私にとって幸せな暮らしだと思っています!

Editor's note
ー取材後記ー

  • 長谷川真希

    ストロー、ペットボトル、レジ袋などプラスチックの使用に対して世の中的に使用は良くないということばかりが広まっていますが、それの何が良くないのかの根本を理解する必要があると改めて思いました。楽しく学べる機会には積極的に参加してみようと思います!

  • 柴崎汐理

    「通訳」という言葉がとても印象的でした。私自身、様々な企業がSDGsを提唱する中、個人で意味を知らない若い人が多いなと感じました。私も古澤さんのように楽しくわかりやすく「通訳」をしながらCheer!SDGsを発信していきたいと感じました。

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